歴史上最も有名なポスターの裏話

印象的な視覚イメージを、拡散する情報へと変化させるインターネットは、ポスターデザインの現状をがらりと変えました。例えば、シェパード・フェアリーによる、バラク・オバマ氏の写真を使った象徴的な“Hope”ポスターは、オバマ氏の許可(さらに、写真の
著作権保有者の許可も)を得なかったにもかかわらず、大統領選挙戦において、誰もが知る“選挙ポスター”になりました。

keep-calm-and-carry-on-17042

ポスター:“Keep Calm and Carry On(平静を保ち、普段の生活を続けよ)”(The Keep Calm-O-Maticより)

しかし、私がこのブログ記事を書く上でインスピレーションとなったのは、““Keep Calm and Carry On””のポスターでした。単色やユニオンジャックの背景に描かれた王冠の下にサンセリフ体の言葉を入れたデザインは、流行に敏感な人たちの間で広まり、あちこちで見かけられるようになりました。

しかし、誰もがその起源を知っているわけではないようです。このポスターは、ドイツによるロンドンへの壊滅的な空襲に備え、市民の士気を高めるために1939年にイギリス政府が制作した宣伝ポスターです(結局、配布されることはありませんでしたが、2000年に再び注目を集めました)。

このように、シリアスな歴史的背景を持つ作品が本来の意味を失い、壁を飾るはやりのポスターとして普及する可能性があることは、確かに腹立たしいことです。しかし、このようなポスターは、誰もが知っているその他多くの有名なポスターの歴史的起源について考えるきっかけを与えてくれます。中には驚くような来歴を持つポスターもあります。

ベンジャミン・フランクリンのポスター

Benjamin_Franklin_-_Join_or_Die

“Join or Die(集結せよ、さもなくば死だ)”:Benjamin Franklin(Wikipediaより)

アメリカ合衆国建国の父の一人である、ベンジャミン・フランクリンによって描かれたこのイラストは、現代のポスターが誕生するよりずっと前に政治漫画として発表されましたが、その働きはポスターと同様のものでした。

この作品のメッセージは、独立を求めてイギリスとの戦いに勝ちたいなら、アメリカの植民地は団結しなければならないというもので、アメリカの団結力を高めるための政治宣伝的な要素があり、覚えやすいイラストが特徴です。

join or die

左:Santos House Party;右:5BORONYC

このイメージはフランクリン自身にもおそらく想像できなかったほど(彼がパーティーやスケートボードにはまっていなかった場合の話ですが)、今のメディアに登場し続け、アイコン的なものになっています。

ベル・エポックの酒の広告

740px-Privat-Livemont-Absinthe_Robette-1896

“アブサン・ロベット”:Henri Privat-Livemont(Wikipediaより)

19世紀後半のヨーロッパに、今で言うグラフィックデザインが登場し、それに伴い現代的なポスターも現れました。アルフォンス・ミュシャのようなアール・ヌーボーの芸術家たちは、美しい絵を描く技術を駆使し、贅沢品、特にアブサンやベルモット酒などのリキュール類の広告を制作しました。お酒を飲むラファエル前派の女性や、小悪魔のポスターがおよそ同じ位の数、描かれています。

16

アール・ヌーボーの印刷物: Leonetto Cappiello

1318527609leonetto-cappiello-pates-baroni-c1921-1500x1500--000

ペイツバローニ、1921年: Leonetto Cappiello

Products842049-1200x1200-1165692

ル・シャ・ノワール(黒猫)、1896年: Théophile Steinlen (via Wikipedia)

第一次世界大戦の募兵ポスター

Britons-Wants-You

募兵ポスター:キッチナーのポスター、1914年 (via Imperial War Museums)

アメリカ人にとって最もなじみ深いのは、星条旗柄のシルクハットを被ったアンクル・サム(下の画像)の徴兵ポスターでしょう。もっとも、きっぱりとした態度で人差し指を突きだしたアンクル・サムの象徴的な描写は、イギリスの有名な陸軍元帥ハーバート・キッチナー(上の画像)が描かれている、第一次世界大戦の募兵ポスターを手本にしたものです。

uncle-sam

アメリカ陸軍の募兵ポスター、1917年: J. M. Flagg (via Wikipedia)

sox

左:“Our boys need sox…(息子たちは靴下を必要としている…)”(Wikimediaより);右:“Wake up, America!(アメリカよ、目を覚ませ!)” James Montgomery Flag作(Wikimediaより)

その他のポスターには、アメリカ国民の欧州戦争への参入に対する士気を弱めるためにデザインされたものもあります。

米旅行業界のポスター

3g04243u

米旅行業界ポスター:“See America” Alexander Dux作、1930年代後半(National Geographicより)

1930年代の世界大恐慌の間、フランクリン・ルーズベルト大統領政権は、芸術家を含む人々の雇用を生み出し経済を活性化する目的で、公共事業促進局を設立しました。

その試みの中で特に好評を博したのが、グラフィックデザイナーによってデザインされた、アメリカの国立公園へ観光客を呼び込むためのポスターのシリーズでした。

See_America,_Welcome_to_Montana,_WPA_poster,_ca._1937

米旅行業界ポスター:“See America” M. Weitzman作(National Geographicより)

See_America,_Welcome_to_Montana,_WPA_poster,_ca._1937_(1)

米旅行業界ポスター:“See America”(Wikimediaより)

カメラが捉えた決定的瞬間

Lunch atop a Skyscraper, 1932

写真:“Lunch atop a Skyscraper(摩天楼の頂上でランチ)”、1932年 Charles C Ebbets撮影(Vintage Everydayより)

携帯カメラの品質が向上したことで決定的瞬間を捉えられるようになると、全く新しいタイプのポスターと言えるスナップショットが撮影されるようになりました。上の画像は1932年、ニューヨークで建築中だったロックフェラー・センターのRCAビルディング(現コムキャスト・ビルディング)の高所に組まれた梁の上で、建築作業員がランチのために休憩している場面です。ちなみに、この写真は加工されたものではありません。

einstein

写真:“舌を出すアインシュタイン”(Iconic Photosより)

この貴重な写真は、アインシュタインが演説を行った会議の後に撮影されたものと言われています。写真撮影のために笑顔を見せるよう頼み続ける記者に対し、うんざりした“現代物理学の父”は、代わりに舌を出したのです。

VJ-Day-Kiss-famous-kisses-2799413-600-897

写真:“The famous VJ Day kiss in Times Square(有名な「勝利のキス」)” Alfred Eisenstaedt撮影(Fanpopより)

この有名な抱擁は、日本への勝利、そして第二次世界大戦終結の宣言を祝うタイムズスクエアでのパレード中に撮影されました。

第二次世界大戦中の女性たち

Rosie-the-Riveter

ポスター:“We Can Do It(私たちにはできる)”(Wikipediaより)

有名なポスターの中でも特に知名度が高いリベット工のロージー。この力強い女性のイメージは、アメリカ女性が軍需工場で働き、戦争努力に貢献することへの動機づけとなりました。

ピンナップ・ガール

monroe

左:ピンナップ・ガール Gil Elvgren作(Flickrより);右:“Seven Year Itch(『七年目の浮気』)”ポスター(movieposter.comより)

男性の購買意欲をそそるために、様々な露出度の服を身にまとった女性を描いたピンナップ・ガールのポスターは、魅惑的な進化を遂げてきました。これらのポスターはその他の大量生産メディアと共に、19世紀末頃に誕生しました。写真とイラストの両方で制作されましたが、写真が一般的な手法となる1950年代までの間で最も注目に値する(そしてエロティックな)作品は、芸術家アルベルト・バルガスにより描かれたものです。

ピンナップ・ガールとして活躍したのは、マリリン・モンローのような実在する女優でした。彼女の最も有名な写真は、『七年目の浮気』(1955年)の映画のスチール写真でしょう。さらに、下のコカ・コーラ・ガールのような、広告用に描かれたピンナップ・ガールも登場しました。

4f0445aa-ad94-443e-8167-42f239d1e149

ポスター:“Yes”Haddon Sundblom作、1946年(Coca-Cola Companyより)

1960年代:革命家とロックスターたち

slide_238010_1212050_free

ポスター:The Doors(ドアーズ)(posters.wsより)

ドアーズのロックスター、ジム・モリソンのポスターは、彼の死後に象徴的なものとなりました。ヘロインの過剰摂取で亡くなったとされる彼は、時代のアイコンとしてカウンター・カルチャーを象徴する多くの人物の一人となりました。

下の3枚のポスターは、アルゼンチンの革命家であるチェ・ゲバラ、フォーク・シンガーのボブ・ディラン、ザ・ローリング・ストーンズ/a>のもので、今では学生寮の部屋に貼る必須アイテムとなっています。

Poster-Che-Guevara

ポスター:Che Guevara Red(チェ・ゲバラ〈赤〉)Jim Fitzpatrick作(Wikipediaより)。1960年に撮影されたAlberto Kordaの有名な写真がベースとなっています。

bdc633d06ab5eaf71d3cbe3387616943

ポスター:Bob Dylan’s Greatest Hits(ボブ・ディランのグレイテストヒッツ)(Milton Glaserより)、Marcel Duchampの自画像にヒントを得ています。

MPW-46100

ポスター:The Rolling Stones Lips(ザ・ローリング・ストーンズ リップス&タン)(blogspotより)

1970年代:頑張って…

kitty

左:The Simpsonsのバージョン(Know Your Memeより);右:1970年代のバージョン(i-5 Publishingより)

どういう訳か、物干しロープにぶら下がる1匹のネコが、“意欲を引き出すポスター”として一大旋風を巻き起こしました。かつてアメリカの副大統領スピロ・アグニューが脱税と賄賂の容疑で辞任に追い込まれたとき、アグニューの支援者たちが彼にこの画像を贈ったことは周知のとおりです。

大学のカルチャー

beer

左:笑いを誘うポスター(amazonより);右:John Belushi(Cha Chaより)

お手頃価格のインテリア雑貨として、ポスターは学生寮の部屋に欠かせないアイテムとなりました。当然のことですが、大学にちなんだ莫大な数のポスター(その多くは飲酒を美化したもの)が制作されました。

上のジョークが効いた古いビール広告と、ジョン・ベルーシがボトルのウィスキーを一気飲みしている映画『アニマル・ハウス』(1978年)のスチール写真は、アメリカ中の大学の友愛会館でよく見られるポスターとなっています。

バラク・オバマ大統領の“Hope”、そして「デュードは変わらない」

obama-hope-shelter1

ポスター:“Hope(希望)”Shepard Fairey作(Wikipediaより)。Mannie Garciaが撮影した写真をベースとしたもの。

近年のポスターで“Hope,”ほどインパクトのあるものは、ほんのわずかでしょう。バラク・オバマ氏の写真をデザイナー、シェパード・フェアリーが赤、白、青色の色彩で描いたこのポスターは、2008年のオバマ氏の大統領選挙期間中に広まりました(シェパード・フェアリーは、オリジナル写真の著作権保有者と裁判沙汰になりました)。

上のポスターは多くの有名なポスターと同様に、多数のパロディ版が制作されました。その一例が、カルト映画『ビッグ・リボウスキ』(1998年)の主人公、デュードを描いた 下の作品、“The Dude”です。

61nUALyObOL._SL1024_

ポスター:『ビッグ・リボウスキ』デュード(amazonより)

他に私が見逃している歴史的ポスターはありますか? ぜひシェアしてください!

関連記事

ポルカドット:アート、宇宙、そしてグラフィックデザイン

ポルカドット:アート、宇宙、そしてグラフィックデザイン

ポルカドット。宇宙そのものが身に着けている唯一の装飾モチーフとして、私たちはポルカドットをかなり本格的に紹介する価値があると考えています。 実際、ポルカドットは、私たちが想像する以上に歴史が深いです。19世紀半ば、英国でメンズファッションの世界で初めて流行してから、ポルカドットは(ちなみに、ポルカダンスとの関係性は証明されていません。フラメンコとの関係は証明されています)現代美術の歴史の中で、思いのほか重要な位置を占めるようになりました。 ESA/Hubbleより ポスト印象派の画家、ジョルジュ・スーラが描いた作品から、物議をかもす現代美術アーティスト、ダミアン・ハーストの何百万ドルもする作品まで、ポルカドットを用いた数多くのすばらしい作品について見ていきましょう。 そして、グラフィックデザインに関してはどうでしょうか?もちろん、見事なロゴ、商品パッケージ、そしてその他にもポルカドット模様のものがたくさんありますが、ドットはそれ以上にもっと深いところにまで及んでいます。 (左)元英国首相のウィンストン・チャーチル、勝利の水玉の蝶ネクタイを着こなしている(右)フラメンコダンサー 今までもしDPI(dots per inch;ドット毎インチ)やPPI(pixels per inch;ピクセル毎インチ)の用語について考えたことがあれば、印刷とデジタル両方のデザインされた画像はドットの集まりによって構成されていることを知っているでしょう。その通りです。ここではまずビッグ・バンから取り上げ、そしてコンピューターモニタとインクジェットプリンタの内部構造にクローズアップしていくつもりです。それでは早速見ていきましょう。 アートの中のポルカドット — 点描画法 ジョルジュ・スーラと彼が点描画法で描いた絵画作品のひとつ「サーカスの客寄せ」(1889)の細部 19世紀後半、印象派に続き、点描画法は目に見える筆のタッチをさらに押し進めるという急進的な実践に取り組みました。たくさんの小さなドットからなる絵を描き始めたのです。(実際、現代のプリンタの仕組みにかなりよく似ています) フランス人画家、ジョルジュ・スーラによって擁護されたこの技法は、色彩理論の仮説から来ています。すなわち、たくさんの異なった、かつ補色カラーのドットをそれぞれ隣り合わせに置くと、(CMYKプリントで起こるように)人間の目ではそれらが中間色調に溶けこんで見えます。しかし、実際に絵画で実践してみると、これはうまくいきませんでしたが、それでも出来上がった作品は目をみはるものでした。 ジョルジュ・スーラの代表作「グランジャット島の日曜日の午後」(1884) ベンデイドット ロイ・リキテンスタインとベンデイに影響を受けた作品「Forms In Space」(1985) 1950年代コミックブックは色のスペクトルを成し遂げるために、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのわずか4つの印刷プロセスカラーを使用するという安上がりな方法を採用しました。イラストレーターのBenjamin Henry Day, Jr.にちなんで名付けられた “ベンデイ”方法はドットを異なった感覚で重ね合わせ(もしくは配置して)、新しい色調の認識を作り出します。たとえば、シアンとイエローを重ねるとグリーンが出来上がり、マゼンタのドットを白いものの上にさらに間隔をあけて置くとピンクという知覚を作り出します。 ポップアーティストのロイ・リキテンスタインはこの方法の技巧を、自身のコミックブック画の象徴的な大型スケールのペイントで明白なものにしました。 ロイ・リキテンスタインの有名な作品「M-Maybe」(1964) このメークアップアーティストはリキテンスタインに影響を受けた驚くべき衣装をうまくまとめている。 インフィニティ・ドット 草間彌生と彼女のインスタレーション「Infinity Dots Mirrored Room」(1996) もしポルカドットのパワーを理解している人がいるなら、それは日本人アーティストの草間彌生です。生涯を通して精神病に苦しみ、東京の精神科の病院で自発的に暮らしているこのアーティストは、作品を作るという精神的なセラピー治療の繰り返しがなければ、ずっと昔に自殺していただろうと語っています。彼女のインスタレーションは、ポルカドットの彫像とミラーを使用し、模様が延々と広がっています。その壮大なドットについて、草間彌生はこう語っています。 「ポルカドットは太陽と月を形どっています。太陽は全世界と私たちの生きている人生のエネルギーの象徴です。そして月は、穏やかで、丸く、柔らかく、カラフルで、無意味で、無知の象徴です。ポルカドットはムーブメントになっています・・・インフィニティ(無限の宇宙)への道筋なのです」 草間彌生、「Passing Winter」(2009) ダミアン・ハースト ダミアン・ハーストと1億ドル(約111億円)の価値がある、ダイアモンドをちりばめた頭蓋骨「神の愛のために」(2007) 2億ポンド(約300億円)以上もの資産を有するイギリス人アーティストのダミアン・ハーストは、2012年、ポルカドットの流行に便乗し、300ものドット作品のシリーズを発表しました。これにより、世界で最も裕福な現存アーティストとなりました。チャリン! ダミアン・ハースト、「Myristyl Acetate」(2005) グラフィックデザインとプリント工程へのピクセル — 左:RGBサブピクセル、中央:ピクセルとプリントされたドットに関する図解、右:そして実際にクローズアップされたプリンタのドット画像 ピクセル、ドット、そしてポイント―なんとまあ!これら3つの要素の相互関係はPhotoshopに詳しい人なら知っている“DPI” や “PPI”の分野という形で実質的に明らかとなっているように、その相互関係についてのみ書いたブログが投稿できるほど複雑です。(これについては乞うご期待・・・) 今のところ、あえて言うなら、コンピュータ画面はピクセルの列が縦横並んで構成されており、さらに各ピクセルは加色法の結果として知覚色のスペクトルを生成し、さまざまな組み合わせで光るレッド、グリーン、ブルーのサブピクセルでできています。一方プリンタは1インチあたり300から600の密度で小さなドットとしてインクを噴出しています。 これでわかったでしょうか?根本的には、どんなデザインであっても、ただ何らかのドットが集まっているだけです。ドットを尊敬しましょう!そしてポルカドットを装飾として積極的に使用しましょう。最後にそのすばらしいデザイン例をご覧ください。 リキテンスタインに影響を受けた99designsデザイナーTintoDeVeranoによる見事な名刺 99designsデザイナーBoolaによるロゴデザインでのポルカドット デザイナーKirstie…

書体を知ろう:Futuraの驚くべき過去

書体を知ろう:Futuraの驚くべき過去

書体の選択が、デザインの出来を左右することがあります。それはウェブや印刷物などのページや、文章、単語に当てはまりますし、実際にはたった1文字であっても、書体によって良くも悪くも見えてしまう程です。Comic Sans(コミックサンズ)が嫌いな人々に意見を聞いてみれば分かります。 1世紀以上にわたり、デザイナーたちは書体の重要性を十分に意識してきました。じっくりと考え抜かれたフォルムを持つ数々の書体がたどってきた歴史は、まさに驚きに値します。例えば、Futura(フーツラ)という書体は、“未来”を意味するその名にふさわしく、誕生から90年を経た今でも、変わらずに活用されています。このフォントの作り手たちは制作の課程において、単に「良いデザイン」を目指した訳ではありませんでした。彼らは最大限に効率的な社会、すなわちユートピア(理想郷)の創造を目指していたのです。 この書体にまつわる物語をご紹介しましょう。 26+ Zeichen: Edelsans 1922年、ドイツ人のヤコブ・エアバー教授がGeometric Sans Serif(ジオメトリックサンセリフ)という書体を作り出しました。この書体は、多大な影響力を誇るデザイン学校であるバウハウスの思想に基づき、装飾や特徴的な要素を廃し、純粋に機能性を追求したものです。そのフォルムは、すべての書体の構成要素として最も基本的な、円をベースにしています。そして、読みやすいことこの上なく、書体の本来の機能をしっかりと果たしています。 バウハウスのデザイナーたちは、フォルムと機能が、装飾や乱雑さ、装飾的な過去の再来といったものを一掃した世界を信じていました。その世界においてのみ、社会的平等が真に実現されると彼らは考えていたのです。それはさしずめ、デザインによる理想郷と言ったところでしょう。 Futura light(フーツラ・ライト)、Futura regular(フーツラ・レギュラー)、Futura semibold(フーツラ・セミボールド)の各書体:Paul Renner (Wikipediaより) バウハウスの正式メンバーではありませんが、ドイツ人のパウル・レナ―という書体デザイナーは、バウハウスの教義を信じており、エアバー教授の書体をより良いものにできると考えました。そしてレナ―は1927年に、Futuraを生み出しました。 この書体は、幾何学的形態(ほぼ完全な円、三角形、四角形)を全面的にベースにしたフォルムで、線のウェートとコントラストはほぼ均一です。また、小文字は非常に縦に長く、同じ書体の大文字より高さがあります。Futuraはまるで、効率そのものを体現しているようです。あからさまな「スタイル」の主張はせず、清潔感と統一感があり、読みやすく洗練されています。 フォルクスワーゲン広告:Jeff Minarik (Coroflotより) 『イケア、Futuraに別れを告げる』:idsgn 過去1世紀にわたり、数々のデザイナーや企業はFuturaの魅力を活かして、印象的な効果を生み出してきました。フォルクスワーゲンとイケアは、広告にFuturaのみを使用していますし(ただしイケアが使用していたのは2010年までで、その後Verdanaに変更したことで物議を醸しました)、ドミノ・ピザやアブソルート ウオッカのロゴに使用されている書体にも皆さんはお気付きかもしれません。 映画監督スタンリー・キューブリック(『2001年宇宙の旅』)と、同じく映画監督のウェス・アンダーソン(『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』)は、作品のタイトルやクレジットにFuturaを好んで用いることで知られています。 Futuraの最高の功績と呼べるのは、月への上陸でしょう。1969年に人類初の月面着陸を行ったアポロ11号の一行は、月に残してきた銘板に書かれた文字の書体に、賢明にもフーツラを採用していたのです。 写真:アポロ11号月着陸船「イーグル号」に取り付けられた銘板(idsgnより) これを歴史と呼ばずして、何をそう呼べば良いのでしょう。 あなたの好きな書体は何ですか? 掲載画像:ニック・シャーマン (Flickrより)[ 翻訳:shunichi shiga ]

ユートピアを目指したデ・ステイル造形運動のビジュアル付き歴史概要

ユートピアを目指したデ・ステイル造形運動のビジュアル付き歴史概要

デ・ステイル(De Stijl:オランダ語で「スタイル」の意味)は第一次世界大戦の混沌の中、「秩序への回帰」を掲げて生まれた芸術活動の一つです。 ドイツの芸術家ピエト・モンドリアンとテオ・ファン・ドゥースブルフが中心となり興ったデ・ステイルは、戦前の芸術の装飾的な傾向(アール・ヌーヴォーを思い浮かべて下さい)を否定し、あらゆる対象を幾何学的形式で描くキュビズムを、新たな芸術の性質として提唱しました。最も基本的なデザイン要素である垂直、平行の直線や、原色のみで表現する完全な抽象芸術を目指していました。 デ・ステイルの造形理念は芸術美を持ちながらも社会に大きく影響しました。芸術家自身の個性を表面上から取り除き、精密さや全体的な調和を求めることによって、デ・ステイル派は未来のユートピアへの基盤を築けると考えていました。 全体主義を理念とするデ・ステイルは、社会を立て直すために、いわゆる「高級芸術」や「応用美術(グラフィックや製品のデザインなど)」、そして「建築美術」を区別している間違った定義を撤廃しようとしました。 デ・ステイルは絵画だけでなくデザインや建築の分野にもその性質が反映されています もちろん、現代のロゴやウェブサイトのデザイン分野でも、この性質が見られます(ある意味では、モンドリアンこそがWindowsの初めてのデザイナーと言えるかもしれません)。 デ・ステイルな作品に目を向けると、それらの特徴はすべて、現代のデザイナーが扱い、称賛しているものだということが分かります。ミニマルな単純性や緊張感の表現、対象物と余白スペースのバランス、グリッド(格子状のデザイン)などです。 Microsoftに用いられたグリッドには、デ・ステイルの芸術美の影響が感じられます 英国のデザイン雑誌『Eye』に掲載されたエッセイで著者ジェシカ・ヘルファンドは、デ・ステイルこそ現代のデザイナーが持つプロ特有の危機感に対する答えだと訴えています。それについて言及した部分を抜粋しました。 ― さまざまなものが電子化した現代の環境の中では対人交流が共存し発達しているために、(もし完全に廃れていないと考えるなら)デザインの機能は社会の主流から取り残されていると考える人もいるかもしれない。あるいは、デザイナー自身の役目が消えかけているとも感じるだろうか。おそらく私たちは無意識のうちに、その支配権をコンピュータや作品を見る人、新しいものを求める欲、成長するグローバル社会に委ねてしまったのだ。― しかし、著者はその状況に対する解決策も提示しています。 ― 現代デザイナーにできること、取り組むべきことの核心は、精密さを明確にし、称賛するということだ。それを活用することでデザイナーの役割はより具体化されると同時に重要さを増し、新たなビジュアル定義を構築する者としての使命が再び明確になるだろう。 スクリーン上でクリエイティブな表現を形とすることに苦心しているなら、デ・ステイルの芸術家たちのように、自分の作品を限られた直線的な要素を用いて訴えてみてもよい。私たちは現代のサイバースペースが生み出す無限に広がる空間で、デ・ステイルの直線で示す魅力を伝えることができるのだから。― まだまだ語るべき内容はあるのですが、デザインの歴史に関しては、おそらくビジュアルで順に追っていくのが最良でしょう。そこで、デ・ステイルの想像力豊かな作品や、デ・ステイルにインスパイアされたデザインを用意してみました。 雑誌『デ・ステイル』1号、2号の表紙 映画『インセプション』のオマージュポスター。デ・ステイルの表紙にインスパイアされたデザインです。 テオ・ファン・ドゥースブルフとリチャード・ケグラーのデ・ステイル書体。四角形のジオメトリックなコンセプトが土台となっています。 アムステルダム市立美術館の新しいロゴはとてもミニマルに仕上がっています。完全なデ・ステイルではなく、根本的なデ・ステイルの要素がいくつか含まれています。 こちらの2つもデ・ステイルにインスパイアされたロゴです。建築家ハリス・アームストロングのロゴ、アップルの改訂版ロゴ。 改装したモンドリアンのスタジオ デ・ステイル展示会のポスター デ・ステイルにインスパイアされた3Dデザイン 別の展示会ポスターと、その展示会グッズ オルタナティブ・ロックバンド『ザ・ホワイト・ストライプス』のデ・ステイルを取り入れたアルバムジャケット。アルバムタイトルにも起用しています。 米国オークション会社eBayのロゴデザインを募集した99designsのコンペで、Ruiz Nala wi Garengが提出した作品には目を奪われました。斜線が多いため、デ・ステイルにはなりきっていないものの、色使いや黒のラインがデ・ステイルな印象を与えます。 いかがでしたか?デ・ステイルは現代デザイナーが持つ問いへの答えだと思いますか?最近、デ・ステイルなデザインを見かけたなら、ぜひコメントをしてシェアしてください! アイキャッチ画像:Theo van Doesburg 『Composition Ⅶ(the three graces)』(Wikipediaより)[ 翻訳:shunichi shiga ]

最新のデザインコンペ

デザイナーとしてステップアップできるお仕事をご用意しています。
0%